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ロックバンド、シャ乱Qの核心を示した堂々たる作品『勝負師』

シャ乱Qのヴォーカリストであり、音楽プロデューサーとしても知られるつんく♂が、母校・近畿大学の入学式に出席し、声帯摘出手術で声を失っていたことを公表。何ともショッキングだったこの悲報は記憶に新しいところだが、その後、“食道発声法”のトレーニングを重ねて、小声ではあるが発声できるようになってきているとの報道もあるという。氏の不屈な精神に敬意を表すとともに、回復をお祈りしたい。今回の本コラムではシャ乱Qの代表作『勝負師』を取り上げる。

2013年に結成25周年記念として「シングルベッド」のセルフカバー版がリリースされたとはいえ、2001年以後のシャ乱Qはメンバーのソロ活動が主であり、バンドとしては単発のライヴやイベント出演ばかりだったので、特に最近の音楽ファンにとっては、つんく♂が所属していたバンドと言ってもピンとこないかもしれない。つんく♂の印象と言えばモーニング娘。以下、ハロー!プロジェクトの総合プロデューサーが一般的だろうか。この一風変わったバンド名は、シャッターズ、RAM(乱)、QP(キューピー)の3バンドのメンバーが集まったことに起因する…と言われても、「はぁ?」と言った感じだろう。NHK主催の音楽コンテスト『BSヤングバトル』の第2回グランプリを受賞し、多くのレーベルによって争奪戦が繰り広げられた末、1992年7月にメジャーデビュー(この『BSヤングバトル』は、当時は鳴り物入りのコンテストだったが、輩出したのは第1回グランプリのGAOと、シャ乱Qくらいだったので、個人的にはその辺も初期シャ乱Qに微妙な影を落としたような気もしている)。“シャ乱Q=バンド”として認識している人たちでも、ブレイク以降はテレビでの露出も派手だったので、バラエティー対応可能なポップバンドといったイメージが強い人も少なくなかろう。だが、さにあらず。シャ乱Qは堂々たるロックバンドである。今回、アルバム『勝負師(ギャンブラー)』を聴いて、その思いを新たにした。以下、そのシャ乱Qの素晴らしさを記したい。

シャ乱Q通算5枚目のオリジナルアルバム『勝負師』は、彼らのアルバムで初めてミリオンセールスを記録した作品である。上で、メジャーデビュー前には「多くのレーベルによって争奪戦が繰り広げられた」と書いたが、シャ乱Qは一気にスターダムに昇りつめたわけでなく、「上・京・物・語」のスマッシュヒットまでは2年間を費やしている。そこから「シングルベッド」を経て、本作にも収録されている「ズルい女」で大ブレイクを果たすのだが、そのミリオンヒットにも十二分にうなずけるほど、まずこの「ズルい女」のサウンド、アレンジが問答無用にカッコ良い。とりわけこの楽曲を象徴するホーンセクションが実に素晴らしい。ロックに限らず、その楽曲を象徴するようなメロディーがあれば、それが歌であれ、ギターリフであれ、リズムパターンであれ、楽曲は成功したと言える。その観点で言えば「ズルい女」は大成功である。あのホーンセクションのサックスには、米米クラブのホーンセクションでもあったBIG HORNS BEEのリーダーである金子隆博(“フラッシュ金子”と言うと分かる人がいるかもしれない)が参加している他、ホーンアレンジは田島貴男のユニット、ORIGINAL LOVEにも参加した森宜之と、名うてのミュージシャンがしっかりと周りを固めている。パンチの効いたホーンセクションだけでも満点な楽曲だが、ギターのカッティング、ベースラインのうねり、キーボードの跳ねた感じもとてもいい(後半、若干ニューオリンズジャズっぽくなるところはキーボードの跳ね具合による)。基のバンドアレンジも絶妙なのだ。「ズルい女」は120点の楽曲である。そして、アルバム『勝負師』には「ズルい女」以外にも秀曲がゴロゴロしているのだ。

「ズルい女」、あるいは「上・京・物・語」辺りからするとポップで派手なサウンドがシャ乱Qのコアと見る向きがあるかもしれないが、おそらくそうではない。楽器パートのアンサンブルの妙…バンドとしては極めて真っ当なことだが、これがシャ乱Qサウンドのコアにはある。それはアルバム『勝負師』をヘッドフォンで聴くとよく分かる。前後左右上下、立体的に音が構築されているのだが、各楽器の音の位置がはっきりとわかれている楽曲が多いのである。このミキシングは多分意図的だろう。各パートの演奏がよく分かるのはもちろんのこと、それぞれが個性的なこともよく分かる。どれも引いていないし、変に出しゃばっていない。それは、ファンクチューンM1「さんざん言ってんだぜ」からそうだ。分かりやすい派手さはないが、各パートが重なり合って楽曲が構成されている。その、言わば“サウンドの配置”はM2「ドラマティックに -'90 Dream-」以下、ほぼ全編で聴くことができるので、是非ヘッドフォンで聴くことをお勧めしたい。しかも、M3「Good-bye ダーリン」やM7「ROBERT」ではオールドスクールなR&R、M5「DA DA DA」ではサイケデリック、M11「今すぐ逢いたい」はハードロック(イントロがドラムのかき鳴らしから入る辺りはレッド・ツェッペリンのオマージュか?)と、しっかりと先人たちに敬意を払ったサウンドメイキングが施されている。冒頭で“堂々たるロックバンドである”と書いた理由はそこにある。

さて、最後にアルバム『勝負師』の歌詞について書こう。個人的には最もロックを感じさせるところは歌詞である。負け犬感が全開なのだ。《愛してるよって さんざんわかっているはずでしょ/シカト決め込んで 六本木ホストふぜいの男がそんなにいいの》(M1「さんざん言ってんだぜ」)と、《今夜会えなかったね 淋しかったよ 会いたかったよ/僕のバースディ 今夜バースディ 会いたかったよ》《あんた本当いい女だったよ 最後もう一度抱きたいよ》(M4「ズルい女」)がストレートに女々しいが、よく聴くとM8「俺のこと愛せないとしても」辺りも《たとえ 君が俺のことを愛せないとしても/それはそれで構やしないさ》と妄想癖をチラつかせている。《今度こそ 俺みたいな男に/つかまらないように 願うけど/余計なお世話だね/Good-bye ダーリン》(M3「Good-bye ダーリン」)や、《君がよくしてる恋は安物だよ/一夜限り だけ教えてあげる》《この僕が ダメならば/どんな男がいいの/日焼けしてる男がいいの/その身体その瞳/今夜だけ預けてみな/きっと後悔させないよ》(M10「ピエロ」)など、ニヒルな男を気取っている歌詞も見受けられるが、上記M8から想像するにこれも妄想だろう。M1、M4のようなことを言う男がそんなに冷静でいられるわけがない(…って、これには何も確証はなく、筆者の想像だけでそう書いているのだが、アルバム『勝負師』収録曲で比較的前向きな歌詞は全部童貞の妄想と思って聴くと超楽しい!)。《なぜそんなガンバっているか なんてさ/考えても いきつくのは/女がいるからさ》《本当はどうでもいいんだよ 夢なんてさ/男なんてそんなもんさ/女の為だよ》《テーマだね 生きてゆく テーマなんだね/男が男であるため/女でいることが》(M5「DA DA DA」)と心理めいたところへ辿り着き、それを公言してしまうのが、何より童貞の証左。これは実に素晴らしい。皮肉でも何でもなく、素直にそう思う。GOING STEADYやサンボマスター、最近ではゴールデンボンバー、忘れらんねえよと、後に童貞魂をストレートにぶつけるバンドも増えたが、シャ乱Qはその先駆けとも言えるし、何よりもそれをメインストリームのド真ん中でやったことは偉業ではなかろうか。その点でもシャ乱Qが日本のロックシーンに残した功績は決して小さいものではないはずだ。

  • minp!音楽ニュース(2015年08月19日)
  • 制作協力:okmusic UP's