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MY LITTLE LOVERのデビュー作『evergreen』は時代を超えた、まさにevergreenな作品

80年代後半からヒットメイカーとしてその名を馳せていた音楽プロデューサー・小林武史が、新人ヴォーカリスト・akkoと、桑田佳佑&Mr.Childrenの「奇跡の地球」にも参加したギタリスト・藤井謙二(Gu)とともにシーンに打って出たユニットがMY LITTLE LOVER。その1stアルバム『evergreen』はチャート初登場1位の上、いきなりミリオンセールスを記録した歴史的な名盤である。この作品の何が多くのリスナーを魅了したのか。独断と偏見で分析、検証してみた。

 “evergreen”とはよく付けたものだ。発表されたのが1995年ということは今年でリリース20周年を迎えたわけだが、いい意味でそれを感じさせない。「Hello, Again 〜昔からある場所〜」を2010年にJUJUがカバーしてヒットしたことも記憶に新しいが、まさに“時を経ても色褪せない名曲”が揃ったアルバムである。正直に白状すると、筆者はこのアルバムを通して聴いたのは今回が初めてである。無論、当時大ブレイクを果たしていたMY LITTLE LOVER(以下マイラバ)の楽曲は否が応にも耳に入ってきたし、一連のヒットナンバーの秀逸さは十分に認識していたが、何故かアルバムを通して聴く機会をここまで逸していた。よって、初物に出会った時の新鮮さもあって、“色褪せない”と感じたところもあるだろう。それは否定しない。だが、この作品には、そういった聴き手の都合とは関係ない、ある種、絶対的とも言える音楽要素が詰まっていると思う。

 まず、本作は時代的、流行的要素が薄い。60~70年代は録音技術的に如何ともし難く、そして80年代は技術の進歩故に、古今東西、さまざまな音源にはその時代ならではの音像がパッケージングされてきた。例えば、60~70年代はマイルド、80年代はエッジが効いた…といった具合に、リマスターしようがその当時の音のフォルムはなくならず、今聴いても時代性を認識することができるものが多い。『evergreen』に関して言えば、90年代という時期が良かったのか、そうした時代性をパッと認識できるほどの音像がないと思う。そりゃあ、それ以前には使われていないレコーディング技術の賜物でもあろうし、クリアな音は明らかに90年代以降のものだろうが、少なくとも80年代に多く見受けられたドンシャリ感は鳴りを潜めているし、かと言って、懐古的に60~70年代を意識した音作りがなされているわけでもない。

 また、所謂ジャンルに関しても、突出した偏りを見出すことができない。もちろん、M2「Free」やM3「白いカイト」はモータウン系であり、M8「Delicacy」はファンクといったようにジャンル分けはできる。オルタナの影響を感じなくもないノイジーなギターもあるし、AOR的なサウンドメイキングも随所にある。しかしながら、「僕たち、大好きなモータウンが大好きなんです!」といった悪い意味での気負いのようなものも感じられないし、マニアックな隠し要素が注入されているような雰囲気も皆無だ。万人受けする汎用性の高いポップスである。そもそも、マイラバは、サザンオールスターズ、Mr.Childrenのプロデューサーとして知られる小林武史が、akko(Vo)と藤井謙二(Gu)との2人組ユニットとしてデビューさせたものなので(のちに小林武史もキーボーディストとして参加)、バンドとは異なり、変化自在なサウンドを標榜したところもあったのだろうが、こうして客観的に聴いてみると──誤解を恐れずに言うならば、妙な個性は感じられない。

 では、(少なくともデビュー時の)マイラバの特徴とは何かと言えば、これはもう優れたメロディーとakkoのヴォーカリゼーションに他ならないだろう。それらをよく聴かせるためにサウンドの自己主張は最低限に抑えられていたのではないだろうかとすら思う。小林武史は前述の通り、当時から優れた音楽プロデューサーであったし、現在The Birthdayでフジイケンジとして活躍する藤井はマイラバ以前から世評の高いギタリストであったので、そんな玄人ふたりがakkoを強力にバックアップしていたとも言える。このakkoの声も“時を経ても色褪せない”印象がある。デビュー時は“甘すぎる猫なで声”とか揶揄されたこともあったようだが、彼女の声はそんなに簡単なものではない。これは個人的な感想でもあるが、少女性を指摘される彼女の声はあるキーから少年性を帯びていると思う。ジャクソン5時代のマイケル・ジャクソンに近いと言えばわかってもらえるだろうか。その点はこのアルバムを“evergreen”足らしめている要素のひとつであろう。性別を感じさせない瞬間のあるakkoの声は歌詞にも影響しているだろうし、これまたマイラバの汎用性の高さを下支えしていると思う。『evergreen』のジャケ写でakko(だよね?)が野球のグローブを着けているのは、この少年性が少なからず関係しているのでは…とも邪推できる(確証はない)。

 さて、ここまでの私的『evergreen』論をまとめると、名プロデューサーがあえて時代性を廃し、名ギタリストを擁して新人女性ヴォーカリストをデビューさせたという印象しか受けないかもしれないが、さにあらず。この3人ならではのケミストリーはしっかりと表現されている。“KATE”名義の歌詞がまさにそれ。KATE とは“Kenji Akko Takeshi Ensemble”の意味で、3人でアイディアを出し合ってひとつの歌詞を作っていたということらしい。それゆえにか、KATE名義の歌詞にはマイラバがこれからシーンに向かっていく上での心境が垣間見れる気がする。《誰かの言葉に 惑わされぬように そして誰かの痛みから 逃げ出さぬように》(M3「白いカイト」)。《輝くホワイトブルー気持ちはまっ白に 好きな時に好きな色でMy Painting》(M6「My Painting」)。《遠い過去 近い未来 流れてるミステリー 微妙に揺れてる心 それは生命の不思議》(M8「Delicacy」)。決意めいたものもあれば、隠しきれない不安もある。スタート地点に立ったからこその感慨。これもまた“evergreen”な要素と言える。(実際には3人での作詞は行なっておらず、全て小林武史が書いていたという説もある。確かに執筆は小林武史によるものだったかもしれないが、それはakkoと藤井謙二とのセッションの末に考えられたものではなかったかと個人的には思う)。

 優れたプロデューサーが優れた監督と役者を配してもその映画が傑作になるとは限らないし、ましてやヒットするかどうかは誰にも分からない。音楽にもそれと同じことが言える。さまざまな要素が重なり合った末に生まれるサムシングニューこそが大衆の心を掴むのだろう。マイラバの『evergreen』は優れたプロデューサーが優れたミュージシャンとが20数年前のあのタイミングで出会い、あの時代にしか得られなかった空気感を、演者たちに機微も含めて音源に見事に閉じ込めたことに勝因と思う。

  • minp!音楽ニュース(2015年04月15日)
  • 制作協力:okmusic UP's