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聖飢魔II、ヘヴィメタルをお茶の間に布教させた初期の傑作『THE END OF THE CENTURY』

地球デビュー30周年を記念して期間限定で再集結している聖飢魔II。昨年来開催してきた全国ツアーも、2月19日&20日の日本武道館公演でいよいよファイナルを迎えることとなった。最近ではコメンテイターとして、また大相撲解説者として名を馳せるデーモン閣下だが、閣下がリーダーとして20世紀末の日本で“地球征服作戦”を展開してきた聖飢魔IIは、邦楽シーンにおける最重要バンドのひとつである。

未開拓なシーンに悪魔、降臨

その黎明期たる70年代前半には外道やBOW WOW、80年代前半には44MAGNUM、LOUDNESS、EARTHSHAKERら、素晴らしいバンドたちが彩り、牽引した日本のハードロックシーン。しかし、少なくとも1980年代後半までは、一般リスナーにとってのハードロック、ヘヴィメタルはまだまだ馴染みの薄い音楽ジャンルだった。Xの『BLUE BLOOD』を取り上げた時にも書いたが、当時ハードロック、ヘヴィメタルは一部好事家たちの嗜好品というだけでなく、一般層からは若干嘲笑気味に語られる音楽ジャンルであったことは正直言って否めない。これは長髪、スタッド付革ジャン、ロンドンブーツというファッション性、ハイトーンのヴォーカル、ギターの速弾き、長尺なソロパートを有する音楽性が忌み嫌われていたというわけでなく、80年代半ばくらいまで音楽を楽しむ場所はお茶の間のブラウン管が中心であったことが大きかったように思う(“お茶の間”も“ブラウン管”もすっかり死語だな…)。テレビの他、音楽に触れるとすればラジオだったが、それにしても局は少なく、NHK以外にFM局のなかった地方も少なくなかった。要するに音楽エンタメの間口はあまり細分化されてなかったのである。一般的な認識として、シーンにある音楽は歌謡曲、ポップス、演歌、ニューミュージック、そしてロックが若干くらいで、ジャンルの多様性を求めるのは未だ困難な時代だったと言わざるを得ない。深夜ラジオからヒット曲が生まれることもあったし、80年代半ばに隆盛を極めたMTVの影響から米国のポップス、ロックも巷にあふれることもあったが、さすがに…と言うべきか、ハードロック、ヘヴィメタルがそこに割り込むことはなかった。彼らが降臨するまでは──。

HR/HM臭を糊塗した地球デビュー

聖飢魔IIは 1985年に大教典『聖飢魔II〜悪魔が来たりてヘヴィメタる』で地球デビューを果たしている。とにかく彼らのデビューは見事だった。前述の通り、未だ細分化しづらかったシーンに、ブラック・サバス以上のサタニズム=悪魔主義をもって、ハードロック、ヘヴィメタルを邦楽シーンにねじ込んだのだ。そんなバンド、アーティストは他になかったし、彼ら以前にそこで闘おうとした人たちも存在したのかもしれないが、それが大きな話題になることはなかった。邦楽シーンにおける聖飢魔IIの功績は褒め称えられこそすれ、蔑まれる謂れはないだろう。

しかも、この悪魔主義が用意周到なるものだったかと言うと、決してそうでもなかったらしい…というのが興味深いところだ。聖飢魔IIと言えば、デーモン小暮閣下(Vo、現:デーモン閣下)が発起人と思われる方がほとんどだと思うが、そうではない。信者はご存知の通り、創始者はダミアン浜田(サタン45世)殿下(Gu、現:陛下)である。ほとんどの楽曲はダミアン殿下が手掛けていた上、彼らが地獄から人間界へ来た悪魔であり、聖飢魔IIが音楽を媒介にして悪魔教を布教するために組織された教団であるという主張はダミアン殿下によって発せられた。ところが、諸事情でこの創始者は聖飢魔IIの地球デビュー前に教団を脱退。その時点で聖飢魔IIは解散状態だったというが、そこへデビュー決定の報が届き、急遽バンドは再結成されたものの(デーモン閣下が主宰となったのはこの頃)、そこでダミアン殿下が参加することはなかったという。

地球デビュー、我々で言うところのメジャーデビューが決まりながら復帰しなかった殿下も殿下だが、悪魔主義の提唱者である創始者不在のまま、そのイズムを引き継いだデーモン閣下以下、当時の構成員も構成員である。さすが悪魔。我々人間とは性根が違うと言わざるを得ない。人間が言うところの“バンドコンセプト”である、徹底した悪魔主義の確かさと、構成員、特にデーモン閣下の対応力の高さを含むマネジメント能力の素晴らしさには素直に脱帽したいところだ。とりわけ、メディアに登場する時の姿こそが普通であり、人のように見える姿を“世を忍ぶ仮の姿”と呼ぶというロジック…もとい、悪魔の風習は素晴らしいものだったと思うし、それを話術(話芸?)に長けたデーモン閣下が説明する様子は、お茶の間的な掴みには十分だったと言える。どこまで確信犯だったか定かではないが、これによりハードロック、ヘヴィメタルに対する世間的な嘲笑をほぼ糊塗することができた。簡単に言えば、キャラクターへの興味が音楽ジャンルへの偏見を払拭したのである。

親しみやすいメロディーラインは悪魔の囁き

これで音楽性が愚にも付かないものであれば、彼らは単なるコメディアンに成り下がってシーンから消えたのだろうが、もちろん聖飢魔IIのサウンドはそうではなかった。ブリティッシュにルーツを持つ正統なるハードロック。これもまた前述の通り、ダミアン殿下が基を手掛け、デーモン閣下以下、当時の構成員が忠実に音像を作り上げた。その集大成とも言えるのが第二大教典『THE END OF THE CENTURY』だ。M1「聖飢魔IIミサ曲第II番「創世紀」」や、小教典として大ヒットしたM6「蠟人形の館」、あるいはM7「怪奇植物」辺りの重いギターリフとリズム、そしてM5「JACK THE RIPPER」やM8「FIRE AFTER FIRE」で見せる疾走感はハードロックの王道である。エース清水長官(Gu)とジェイル大橋代官(Gu)によるツインギターの絡みは生真面目さすら感じさせるものだ。多すぎるモノローグはご愛嬌だが、デーモン閣下の歌の上手さは言うまでもなく特筆もの。「JACK THE RIPPER」でのシャウトはさすがだし、悪魔ならではのおどろおどろしさを含めたヴォーカリゼーションには確かなものがある。最注目はメロディーラインの親しみやすさだろう。収録曲はどれも耳馴染みはいいが、「悪魔の讃美歌」は、その壮大なバンドアンサンブルの効果もあって、サビメロは実にドラマチックだ。一度聴けば…と言ったら大袈裟かもしれないが、《In the melody 蘇れ/エロイム エッサイム Satanic world》のフレーズが頭の中をグルグルと駆け回る人も少なくなかろう。筆者は本稿作成に辺り、約30年振りに『THE END OF THE CENTURY』を耳にしたが、このメロディーはしっかり覚えていたし、今も耳から離れずに若干困っている。今さらながらにサタニズムの恐ろしさを身をもって知ることとなった。

第一大教典『聖飢魔II〜悪魔が来たりてヘヴィメタる』はヘヴィメタル専門誌“BURRN!”のディスクレビューで0点と随分とコケにされたそうだが、日本のヘヴィメタルバンドとして初めて10万枚超のセールスを記録し、続く『THE END OF THE CENTURY』はチャート最高位5位、売上は前作を上回り(20万枚を超えたという説もある)、聖飢魔IIは当時の音楽シーンでは異例のブレイクを果たす。これによって確実に潮目は変わった。その3年後、X(現:X JAPAN)が登場し、それまでのハードロック、ヘヴィメタルバンドになかった大成功を遂げることとなるが、聖飢魔IIのお茶の間進出がそれとまるで無関係だったとは言い切れまい。“常識を破る”は悪魔教の教義のひとつだったというが、聖飢魔IIは見事にそれまでの常識を打ち破った。その人智を超えた仕事っぷりはまさに悪魔の所業であった。

  • minp!音楽ニュース(2016年02月17日)
  • 制作協力:okmusic UP's